つい最近まであまり思うことのなかったテーマですが、最近気になってしょうがないことなので書いてみます。

 

私たちはドラマや映画に阿部寛とか木村拓哉が出てくると、「あっ阿部ちゃんだ」とか「またキムタクかよ」と認識して、結局よほどのことがない限り彼らが彼ら自身であることから私たちの頭は離れることができません。

 

少々古い映画の話ですけど、

『ゴッド・ファーザー』に出ていたアル・パチーノが役者としてのイメージが固定化するのを嫌いしょぼいチンピラの役をやってたりホモレイプされるような役を演じてるのを見ると、観客の立場としては結構混乱してしまいます。

もしくは、「全米一のマフィアのドンがそこまで落ちぶれたのか!?」といくつかの映画をごっちゃにした一見非論理的な感慨を持ってしまいます。

 

生身の人間が絵空事を演じている、それゆえ、私たちはドラマや映画を完全なフィクションとしては見ることができないんですよね。

物語はフィクションであっても中の人たちは私たちと同じ現実の世界に生きてるわけですから。

だから、作る側としては、開き直って、

阿部寛なんだから、彼の過去の作品群から主人公はこういう内面を持ってるに決まっている」と観客に類推させることで作品の情報量を割り増すことができます。

逆に、「阿部寛がこんなことを!!」と絶句させることで本来ストーリ―と関係ないところで盛り上げることが出来たりもします。

 

 

これに近いことは他の物語ジャンルにもあり得るのかということですが、

 

小説って、同じ作者の物語群で、登場人物の思考パターンや行動パターンが似ているというのは往々にしてありますけれども、登場人物の容姿や声に対して正確に読者に伝えることができませんので、同じ人物が別の作品に登場してくることによる戸惑いは基本的にありません。

 

しかし、それと比べるとマンガって、小説よりも映画に近い。

物語はフィクションであろうとも、そこに描かれた絵って現実として存在しています。

 

まあ、キャラクターを描き分ける作者の技量にもよりますけれど、

たいていの作家って、ヒーローは数パターン、ヒロインも数パターン、悪役も数パターン、それらを作品の枠を超えて使いまわしてるだけですから、

「あっ、阿部ちゃんだ」「け、またキムタクかよ」的な感慨を持ってしまうんですよね。

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某巨匠の主人公。顔だけ見ててもどの作品かは分かりません。

こういう作品にどう接するべきなのかというと、

かわぐちかいじってキャラの描き分け数パターンしかないよね」ではなく、

黒澤に三船・小津に笠智衆がないと物足りないような、「よっ、待ってました」的な受け止め方なのでしょう。

 

正直申して、『沈黙の艦隊』も『ジパング』も『空母いぶき』も似たような話じゃないですか。似たような話に似たようなキャラクターが出てくるのは当たり前のように私には思われるのですよね。

そして、その有様が、同じ登場人物が別の作品のに於いて輪廻転生してるように見えるのですよね、私にとっては。

 

物語が現実の問題を出どころとしている、物語が現実に生きる人々の願望を出どころとしている、それゆえに物語の中だけで問題が解決したところで私たちの目の前の世界はほとんど変わらないまま残っているわけです。

だからでしょうか、主人公が舞台を去っても似たような物語がまた始まり、結局さっきの主人公はその新しい物語に輪廻転生せざるを得なくなるのではないでしょうか。

 

 

松本大洋の作品群ですと、

ZERO(ゼロ)(1) (ビッグコミックス)
 

 ほとんど知障でネガティブとは無縁の主人公。

生きてるのが不思議なくらいなハードな試合の中で彼がぼそっと言う台詞、

「今度生まれ変わるときは、花になりてえ」

 

 

花男(1) (ビッグコミックス)

花男(1) (ビッグコミックス)

 

 ほとんど知障で三十を過ぎても巨人入団を真剣に信じてる父親花男。そんな父を宇宙人か何かのようにしか感じられない息子の茂雄。

 

 

 ほとんど知障で明るいけど無力なシロと、頭よくて強いけどネガティブで心の折れやすいクロ。

 

 

ピンポン(5) (ビッグコミックス)

ピンポン(5) (ビッグコミックス)

 

 ほとんど知障で明るくて卓球の天才のぺコ。頭よさげだけど暗い卓球の天才スマイル。

 

現実の社会への興味を発端とするかわぐちかいじの架空戦争シリーズと比べると、松本大洋の物語群は、もっと個人的で内面的なものですから、作者の人生の流れの中でその問題意識も少しずつ変わっていっているようです。そしてそれに合わせて登場人物の在り方も輪廻転生しているとはいえ、少しずつずれていってるように思われます。