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読み飛ばし、ということをこのブログの中で私は言いますが、
速読法でいうところの、斜め読みみたいなもので自分の興味関心のある単語を探し、その周辺だけを読むのと似ているかもしれません。
人によっては、読み飛ばしという言い方に対して、
軽率で注意散漫で頭の悪そうな印象を抱くかもしれません。
わたしたちはマンガを読むことに対し、何もできるだけ短時間で最大限の情報を得ようなどという実利的な目的を持っているのではないのですし、ほとんどの人はその世界にどっぷり浸りできる限り臨場感を感じ登場人物と同化することを求めているはずだからです。
そしてブログにレビュー書いたりする人なら、読み飛ばしたうえでの感想を書いているのではなくて、どっぷり浸りきったうえでの知見を書いているはずなのですが、
にもかかわらず、依然として私たちはマンガを読むときに多くの情報を読み飛ばしてしまいます。
これはおそらく、わたしたちのマインドの在り方が注意関心の焦点から外れた部分を漠然とした印象としてしか取り込むことができない故だと思われます。
同じマンガを何度も読むことに対し違和感を感じる人、もしくはネタバレということに対し過敏な反応をする人は、物語のあらすじこそが作品だと考えている人なのでしょう。
それはそれで結構な事なのでしょうが、
そういうあらすじのみを求める人の場合なら、あらすじとの関係が薄いコマに対しては読み飛ばしを行っているはずです。
あらすじに対して重要と思われるコマは
- 主要登場人物の台詞を含むコマ
- 主要登場人物の行動を示すコマ
それら以外を無視しても、たいていは速読の斜め読みのような効果を得ることができます。
では、逆にそれら以外のコマに着目してみるとどうなるでしょうか?
そしてそれはマンガを読むことにおいてどのくらい重要な事なのでしょうか?
岡田和人の『いびつ』、藤子F不二雄の『ドラえもん』、押見修造の『惡の華』、これら三作品には共通点があります。
それは、主人公の部屋が二階にあることです。
そしてこの点に着目し、三作品の差異を考察してみると、いろいろ面白いことが分かってきます。
岡田和人の『いびつ』
岡田和人の作品に特徴的な
戯曲におけるト書き(場面…柿口家)
の役割で用いられるコマ。
場面を家の中とするなら、まず事前に上のようなコマが使われますし、
学校の場合ですと、最上階と屋上を望むコマが使われます。
読者の立場としては、「何もそこまで律儀に場面を示すコマを挿入しなくてもねぇ」とは思うのですが、この機械的な律義さが彼の作品のリズムとなっています。
藤子F不二雄『ドラえもん』
『ドラえもん』ですと、
戯曲におけるト書き(場面…野比家)の役割は、
門柱・玄関を描いたコマが担います。
『いびつ』における家の二階のコマと同等の頻度で、家の門柱・玄関のコマが出てきます。
この違いはなぜかというと、『いびつ』の主人公は一戸建てに一人暮らしですが、
のび太の場合は、家族と一緒に住んでいます。
ご存知の通り、のび太はいつもママには叱られてばかりですから、野比家の一階はのび太にとっては自分の領域とは言えません。
犬やジャイアンや宿題などのトラブル満載の外の世界よりは多少はましでしょうけれども、ママのこごと、お使いや草むしりの強制など、かなりアウェー感漂う場所です。
それゆえ、
ドラえもんがいて秘密の道具でどんな望みでもかなう個室との間にははっきりと一線が画されているようで、その境目に当たる階段を描くコマもよく登場します。
つまり、一人暮らしの生活を描いたマンガと比べ、のび太のような親と一色に暮らす少年にとっては、家の中とは言えども、自室内とそれ以外では区別がされているという言わけです。
だから
ト書き(場面…のび太の家)の機能を果たすコマは『ドラえもん』では使いづらいのですが、
それでも、なお、家の二階を外から描いたコマは時折『ドラえもん』の中で使われます。
ただし、その使われ方は、場面を表すためのト書きとしてではなく、
昼夜の区別と天気を表すためのト書きとして特化されたものです。
室内を描いたコマの場合、窓からの自然光で明るいのかそれとも室内照明で明るいのかの区別をつけるのは大変面倒な手間がいりますし、
読む側としても、そういうことはあまりどうでもいいことだったりします。
話の流れとして、昼が夜になった、夜が朝になった、そういう状況を表す必要があるときに、家の二階と空を描いたコマを挿入して、いまの明るさや天気状況をしまします。
『いびつ』や『ドラえもん』と比べると、『惡の華』の家の二階を示すコマはその示すところに少々の混乱と戸惑いが見られるように私には感じられました。
ト書き(場面…春p日家)の機能を持つコマとして、
『ドラえもん』式の門柱・玄関ではなく、『いびつ』式の家の二階が使われるのですが、
主人公・春日髙男は、のび太と同じく両親とともに住んでおり、